午後からは、宮城県石巻の雄勝で複合体験施設「MORIUMI
運営する、油井元太郎さんをゲストにお迎えしました。
まずは油井さんの生い立ちから現在どのような取り組みをなさっているのか、
そして今後何を目指しているのかなどのお話から伺います。
きっかけは、世界を震撼させた事件から
油井さんは小学生時代をアメリカのカリフォルニアで過ごしました。
「個性を大切にして、自分らしさを出す」といったご自身の考え方などにも、
海外生活の長さが感じられ、高校生たちにも刺激的だったようです。
大きな転機となったのは、2001年9月11日にニューヨークで起きた、同時多発テロ。
ハイジャックされた民間航空機2機がビルに突入し、2000人を超える犠牲者を出した
事件です。
当時ニューヨークで、日本のテレビ局の制作現場で働いていた油井さんは、
自分のまちで起きた衝撃的な出来事をきっかけに、日本に戻ることを考えます。
2004年に帰国し、メキシコ発祥の子どものための職業体験施設「キッザニア」の
日本法人立ち上げから企画、スポンサー獲得、その後の運営に10年ほど携わることに。
「誰もやったことがなくて、自分が子どもだったら行きたいと思った。
だったら作りましょう、と始まりました」(油井さん)
こうしてスポンサー集めに奔走し、晴れて日本初のキッザニアが完成。
施設内では子どもたちが仕事の体験を通して対価をもらい、
またサービスを受けるのに使うことができます。
楽しい体験ではなく、経済の動きを実感できるのが特徴。
働くというのは、人のために何かをすること。
キッザニアは『生きることを知る場』なのだと油井さんは言います。
「子どもの体験」といった分野でのノウハウをお持ちの油井さんには
2013年の南相馬ソーラー・アグリパークの立ち上げにおいても、
多大なるご協力をいただきました。
雄勝の小学校をよみがえらせる
東京にいた油井さんが、雄勝に訪れるようになったきっかけは2011年の東日本大震災。
もともと東京に仙台出身の友人と共に炊き出しに通ううち、食を通じた復興支援のためのNPOを立上げることになり、
その後、地域で被災した給食センターに代わって、とある公立小学校の給食を作ることになったそうです。
こうして雄勝で活動しているうちに、2013年の4月には
廃校になった小学校の活用プロジェクトが立ち上がります。
昔の雄勝を感じられるような、日本の原風景がそこにはあったといいます。
それを活用して、子供たちが「生きることを学ぶ場」を作りたい。
こうして立ち上げた体験学習施設が、モリウミアスです。
2013年当初、廃校になった母校の復活に向けて、地元民たちはもちろん、
全国、そして世界中から噂を聞きつけた多くの人々がボランティアに集まりました。
多い時には200人もが訪れ、年季の入った校舎をよみがえらせていったそう。
さらに油井さんからは、事業としての仕組みや目標
スタッフの関わり方などについて、経営の観点でもお話しいただきました。
仲間を作り、win-win-winを叶えるために
市内外から大勢の利用者が訪れて雄勝に活気をもたらしているモリウミアスの取り組みは、
午前中に考えた新センターハウスの活用についても参考になる部分がたくさん。
高校生たちは、グループごとに油井さんへインタビューする形で、
疑問や思いをぶつけていきました。
「人を巻き込みたいときに、どうすれば相手に一緒にやりたいと思ってもらえますか」
という問いには、ビジネス的なメリットだけでは人は動かない、とのアドバイスが。
「人は結局、相手の『やりたい気持ち』に揺さぶられる。
自分の揺るがない信念、思いを見せていくことが大切。
その人だから、と応援してくれる人を得られる」(油井さん)
また、多くの人々がボランティアに訪れたりと人が集まった理由についても、
「情報発信はFacebookだけと言うが、顔の見える繋がりもありそう」
という高校生からの指摘がありました。
これについては
「震災直後の炊き出し時代に知り合った仲間たちが紹介してくれたり、
信頼をおける仲間の応援はもちろんある。そこから広がったのは、
地域のリーダー的存在や、いつも頼られているお母さんなど、
『この人が言うなら』と思わせる『インフルエンサー』がいたから」
と油井さん。
誰でもインフルエンサーになれるわけではなく、志で分かり合える人じゃないと、
という言葉に、うなずきながら聞く高校生たちの姿がありました。
最後には、油井さんのお話を聞いて自分が活かしたいと思ったこと、
強く感じたことなどを一人ずつ発表してもらいました。
「失敗をバネにしていくこと、自分らしさを出すことを忘れずにいたい」
「どんどん行動していく姿に感動した。自分は頭で考えがちなので、行動していきたい」
「もとの状態に戻すのではなく、新しい価値を作ろうとしていると感じた。
将来、行政の仕事に関わりたいと思っているので、この事例を活かしたい」
目の前の人々が求める声に応えながらも、利用者や地域など、
関わる人々すべてのWin-win-winを意識して事業を進めてきた油井さん。
何かを成しとげる時には、様々な人の視点に立つ必要があるということを
高校生たちは実感したようでした。