いわき駅前には「チャレンジを応援する」市場がある
午後からは、福島県内の若き起業家とのディスカッションから学ぶ、ということをテーマに株式会社夜明け市場取締役、特定非営利活動法人TATAKIAGE Japan理事の松本丈さんにお越しいただきました。
東日本大震災で被災したお店や復興を後押ししたいと集まったお店が集まった飲食店街「夜明け市場」は、いわき駅前にあります。現在はいわきを盛り上げたい人、何かをはじめたい人のチャレンジを応援する場として地域に根付きつつあるそう。松本さんは震災後、夜明け市場の立ち上げに際していわきにUターンして以来、これからのまちづくりに向き合ってきました。
高校生のときから、変わらない夢だった
いわき市四倉町で生まれた松本さんは、小中学校で部活に打ち込んだすえ県立磐城高校に進学。そのとき利用していたいわき駅には、まちの中心部ながら買い物する場所も少なかったのだそう。
「さびれた駅前をなんとかしよう、が高校生時代の夢でした」
そんな夢から「理系だから建築家になれば、建物を作ったり、楽しいまちにできるのでは
と考え東北大学の建築学部に入ります。大学では設計の課題に取り組みながらも、設計をするだけではいいまちは作り出せないと感じた松本さん。いつか起業することを目指し、まずは建物の管理や建物を作るプロセスを学ぼうと、不動産のベンチャーに就職しました。
しかしここで大きな転機が訪れます。2008年、リーマンショックで会社が破産。不動産の勉強をする場を求めるも失業者があふれ、働く場所はなかなか見つからなかったそうです。
「大学院を卒業して、ハローワークにいる自分なんて想像してなかった。周りにいる求職者たちと立場が一緒なのだと思ったら、自分の身は自分で守るしかないと覚悟が決まりました」
けれども起業はまだ早いと思っていたところに、小学校からの親友・鈴木賢治さんが起業。食を通した地域活性を目指す「株式会社47PLANNING」に加わらないかと声がかかります。まちづくり、地域活性化へ関心のあった松本さんは、こうして新たなスタートを切りました。
今できることは何か、続けるにはどうすべきか
立ち上げに奔走する2011年、東日本大震災が起きます。契約農家も被災して出荷ができない状況に。物流が止まった中、今できることをしようとの思いから、いわき市で炊き出しをはじめました。しかし、炊き出しには食材費や人件費がかかります。ボランティアの支援ではなく、継続的にビジネスで回せる仕組みを模索して生まれたのが「夜明け市場」でした。
被災した飲食店を集めて、事業再開の場所を提供する飲食街。松本さんたちは被災者支援のみならず、新しいまちづくりの拠点にもできるのではと考えました。場所と出店者を求め、地元の人のもとを営業に回る日々が始まります。
たどり着いたのは築45年のさびれたスナック街。お金がないなら今の雰囲気を活かし、昭和レトロな飲み屋街を手作りすることにしました。地域住民や学生とともに片付けと改修をして、歯抜けになっていた空き店舗には徐々に飲食店の入居が決まります。
2011年11月、2店舗からオープンした夜明け市場。イベントを仕掛けたりしながら、現在はすべての空き店舗が埋まり15軒が営業しています。
地域をよくするために、自分は“架け橋”になろうと決めた
「いわき駅前を盛り上げたい」という高校時代の志から、いわき市の地域課題に取り組んできた松本さん。しかし、Uターンという立場ながらよそ者扱いされるなど、まちに関わるには難しさも感じました。
「思いはあっても、地域に入って活動するのは意外と難しい。うまくいかない人を何人も見てきて感じたのは、“誰に相談するか”が大事だということです。まちにはキーパーソンがいるので、まちのことを分かってきた自分が“やりたい人”と“地元の人”との橋渡しをするのが、新しい事業を作るのに必要だと感じました。」
こうして松本さんは、NPO法人TATAKIAGE Japanを立ち上げます。「地域を良くするアクションを、地域みんなで応援し育てる文化と仕組みを作る」、そうした思いで運営するコワーキングスペースやプロジェクトのプレゼンイベント「浜魂(ハマコン)」は、起業家支援のプラットフォームとしていわき市にも認められているそうです。
目の前にチャンスはある。実力をつけ、仲間を見つければ戦える
ハードとソフトの両方から地域活性をすることが必要だと、松本さんは言います。地域の課題に関心を持つ高校生たちも多い今回、松本さんからはこんなメッセージがありました。
「東京だけじゃない、田舎こそチャンスがある。いろんな機会を見つけて学べば、身の回りのチャンスに気づけるようになります。自己研鑽を重ね戦う実力をつければ、福島は面白い場所。まずはいろんな世界を見て、自分がどこで志を果たすのかを考えていくときに、福島を選択肢の一つにしてほしい」
福島で活躍する先輩の姿は、長い道のりを奔走してきたように思えたのかもしれません。「人生のくじけそうになったとき、何を考えて進んで来たのか」という高校生の問いには、「仲間にあった」との答えがありました。
「自分は強い人間ではないので、一緒に夢を語り合える仲間がいたのは大きかった。一人でも理解者がいると、人間頑張れます。人に話すことで自分の頭も整理されて、解決策が思いついたり、対した悩みじゃないと気づいたり。いい仲間を見つけてほしい」
仲間と一歩ずつ歩む上では、分業化された作業だけをこなしているわけにはいきません。自分がしっかりしないと会社がつぶれるかもしれない。そんな覚悟がないと、半端ではやっていけないという松本さんには、同じく少人数ながら歩んできたあすびと福島にも重なるところを感じました。いっぽうで「ただ世の中の役に立つだけではなく、自分が楽しいからやってこれた。自己実現のためにやっている」とも。
「いわきを盛り上げる」という思いは変わらず、様々な形で活動を展開する松本さんの志、そして志を行動に移すための心構えは、「仲間づくり」と「楽しさ」にあったようです。
もう一度、志を見つめなおしてみよう
はじめに共有した自分の問題意識を、どんな志としてどのように解決していくか。高校生たちは松本さんのお話を聞いたうえで、改めて考え直してもらいました。
「過疎化の解決に関心があったが、地元の人と協力して行くのも大事だと感じた」
「身近な人に思いを話し、協力してもらうところから始めたい」
「 仲間を大切にしていくことの大切さを学んだ。これからの活動に生かしていきたい」
地域の課題に取り組むうえで欠かせない、人との付き合い、仲間づくりを身近なところから始めようとの意気込みが多く聞こえてきました。地域を盛り上げ、何かを生み出していくことは、一人ではなかなか難しいものです。けれども声をあげていれば、どこかにきっと応援してくれる人がいるはず。彼らの志を形にするチャンスが、少しずつ広がってゆくことに期待します。
ちなみに今回は途中、偶然にも3年生の先輩たちが顔を出してくれました。いまは受験勉強などに集中しており、オープンスクールには久しぶりの参加となった彼女たち。後輩たちが一生懸命考える姿には刺激を受けたようです。
「一人で悩まずにこういう場で共感されたり、意見をもらう場は大事。いい機会だと思って、全力でがんばってみてほしい」と応援のメッセージがありました。
最後には松本さんからも、思いを人前で言語化する大切さについての言葉をいただきました。
「こういう場で話すことで、僕にとっても言語化できる良い機会となりました。みんなには時間がある。視点を広げて、自分の思いを言葉にしながら仲間を作っていってほしい」
福島の外まで思いを巡らせる広い視野を持ちながらも、身の回りにある課題とチャンスに向き合っていくことを期待しています。